遠距離M女ですが、何か?
井原りり



 残念無念



って別に今回が初めてではないのだが、着信があったのに出られなかった。

「生活」にはどうしても勝てない。

いや、勝とうと思ってはいけないのかもしれない。




2002年10月12日(土)



 ココロを責める人


「K」が帰ってしばらくたったある日。

「K」がいはらあてに出したような文面のメールがわたしのところに着いた。

あの日、肩とあごにはさんだあたしの携帯で「K」はいはらの声を聞き、声だけでいはらへの服従を誓ったのだという文面。

ん? 送る相手を間違えてないか? と発信者を確認するといはらからの転送である。


「声だけでねえ……」


これ、ほめすぎちゃう?
まあ、悪声ではないが、美声でもないし、あえていうなら話し方全般に不思議なチカラがある人なのだけどなあ。


でも、なんで、あたしに転送するよ?


翌日は、「K」から直接、いはらにあてた課題の報告があたしの方にも届いた。

なんだか、こころがざわざわしてきて、少しひらめいたものだから、いはらに問い合わせてみた。

やはり彼が指示して、あたしにも課題報告を送らせたらしい。

すごくこころがざわざわしてきた。


これには何かある。

はたして、来た。
こんな、めるだ。


「嫉妬ってしたことないでしょ?」と、いはらはいう。


いかにも、なんかミョーに寛大というか、わたしは本当の嫉妬をしたことがない。

そうか、そういうことか。
なるほどね。



「嫉妬するな」とはいうものの、あたしが嫉妬しないはずがないと知ってての仕業だ。

こんなふうにこころを責めてくるなんて……。

こんな責められ方をされたら、ますます……。


今までのことはすべてこのための伏線だったことを悟る。


かなわない。






2002年10月13日(日)



 おきものだもの


むかしからの読者さまはご存知でしょうから、なんだか宣伝みたいで、あれですが……。

『おきものだもの』というめるまがを出している。

去年くらいから着物で外出というのがマイブーム。

母親が着物をよく着る人だったし(故人ではないが、今は一切着ないので過去形)人が集まる場所で目立ちたいという欲があるので、マイブーム。

今年は何回、着たっけか?


1.組合の新年会……ウール、半幅帯、羽織。
2.画廊オープニング……更紗の柄、半幅。
3.職場でお祝い……付下。
4.子どもの卒業式……母の鹿の子、黒い羽織。
5.子どもの入学式……小紋、お太鼓。
6.子ども2号入学式……付下、お太鼓。
7.出版記念会……更紗、お太鼓。
8.歓送迎会……紅梅色の格子、半幅。
9.PTAお食事会……大島の格子ここから単衣、アウトレットの帯。
10.いはらと食事……薄物、半幅。
11.ライブ……浴衣。
12.家族で食事@hotel……浴衣。


率にすれば、月1回以上だな。

いまどきのフツーの奥さまはだなあ、どうだ? 

子どものお宮参り、七五三、結婚式への招待、子どもの卒業式、親の葬式。

一生に10回着るか、着ないか、だろうから、ま、こんなところでも充分目立つことはできてるな。


で、今月は白鷹のお召しが出来上がってくる。
これを着て出かける予定が2件ある。


紅葉柄の臙脂色の半襟をかけたセルの長襦袢が待機中。

が、しか〜し、問題は、帯! なんだよねえ。


本当のお金持ちは着物と長襦袢と帯もフルコーディネイトしてご購入なさるのであろうなあ。


まだ帯が決まってないのでござるよ。



2002年10月14日(月)



 『最終兵器彼女』

恥ずかしながら、年がいもなく、VIDEO屋にあったものだから、わずか30分で、新作だから100円増しの、2泊3日しかだめなのに、借りてきた。

さっさとムスメが先に見る。

「まあ、ありがちな、想像通りの展開だったね。嫌いじゃない……。好きかもしれん」

なんつーか、生意気な物言いだな。中学生だってのによ。
さすがはうちのムスメだ。


わたしは、というと、返却予定日の閉店時間は過ぎたのに、見てない。

いいや、明日の開店前までに、店頭のポストに入れれば、延滞にはならない。

舞台は小樽?

地獄坂って言ってたぞ。
地獄坂の上にあるのは「小樽商科大」?
高校があるのか?
まあ、でもマンガだしい……。

その昔、現代国語の教科書に伊藤整の『ある詩人の肖像』が載っており、けっこう読み込んだつもり。

小樽って好きだ。
今年、2回も行ったし……、仕事でだけど。


『新世紀エヴァンゲリオン』の「第三東京市=箱根」って、設定にはのけぞったがな。
そうか、最近ってみんなこんな感じなのか?

だったら「ヤマモトヨーコ」もそうだったのか?
うー、すべてをおっかけるわけにはいかないからな。


こっちも年齢相応に、はまり込む作品を選ばねばならん。


夜中にビデオを見ながらマニキュアを塗る。

しかも10本ある指のうち、たった2本だけにマニキュアを塗る。


いはらに云われるまで、あたしの生活の中になかったもの。


できあがった習慣の中に割り込んでくる、新しい習慣やしきたり。


自分の生き方は自分だけで決める。
誰にも指図されない。

そう思っていたのは、子どものころのこと。

マニキュアが乾くまでは何もできない。

少し動いても何かに触れる。せっかく塗ってもぼこぼこになっちまう。


マニキュアが乾くまでの時間
ただじっといはらのことを考える


習慣も時間も自分の思い通りにならない幸福。


くすぐったいようなパラドクス。





2002年10月15日(火)



 なあにがレトロぞ


先週、ニュースステーションで「絶滅なんとか」という特集をたまたま見た。
その日取り上げられていたのは、8mmカメラだった。


今でも忘れていない、扇千景の「わたしにも写せます……フジッカ シングル エ〜イト」

8mmつったら、ほら、『転校生』のラストシーン。

などと子どもに話しかけていたら、案の定、大林監督登場。

デジタルビデオは「記録」を残すが、8mmカメラが写したのは「記憶」なんだって。


* * *


タイムスリップグリコが第二弾を出してきた。

前回以上のリアルさ。

朝ごはんのちゃぶ台をgetするまで買うつもりだが、果たして……。

鉄人28号はどうでもいいなあ、この際。


* * *


レトロだから、何だって云うんだ?

今の時代の視点で、あの時代の風物を見るから「レトロ」なだけじゃん。

当時はアメリカにあこがれるばっかりで、昭和という時代のキッチュさには気付かず、むしろ昭和日本をさげすんだり、恥じたりしてなかったか?


* * *


昭和歌謡でなぜ悪い?

欧米ポップスもどきをさんざん歌ってきて、ここ数年は昭和歌謡に路線変更したよな>桑田。

もっと早く気付けよ、といいたいところだが、もっと早かったとしても堀内孝雄になっただけ。


ま、人のことはいい。

レトロだから、どうしようっていうんだ?

「おきものだもの」をなんで始めたんだっけ?

どうしてわざわざ着物で出かけることにこだわるよ>わたし。

ゆくゆくは着物で出かけるだけでなく、着物で生活できないかな、と企てているということは、ある。


* * *


「レトロ」さをありがたがってるっていうのは、だめなんじゃないかって思う。

生活そのものがレトロだった時代の不便さ、その不便さに対してざんざん文句いってきたじゃあないかって思うから。


小樽や函館で、昔の銀行をホテルに改装したのとか、あるよね。

外見は、まあ、よい。

細かいところ、たとえば洗面所、お手洗いなどの水まわりはどうだ?

昔ながらの蛇口とかシンクを懐かしがるより、旧式の使い心地の悪さに辟易としてないか? 
メッキとかはげかかってても平気か?
不潔な感じとか受けたりしてないか?
 
やっぱり最新のぴかぴかしたホテルがいいわって、思ったりしてないか?


奈良ホテルに泊まりたいか?
箱根富士屋ホテルは?
日光金屋は?
東京駅ステーションホテルは?

考えちゃちゃうなあ、外からはずっと眺めていたいんだけどなあ。

東京駅とか、大好きなんだけどなあ。


* * *


今日は何が書きたかったんだろう?

たぶん、なんで着物着るのかっていう問いにうまく答えが出せないもんだから、堂々巡りをしてただけだと思われ




なんか……ま、いっか。




2002年10月16日(水)



 トリビュートアルバム


今日、買ってきたスピッツトリビュートのほかにも何枚か持っている。

トリビュートつったって「夜はひっぱれ」的な芸能人カラオケ大会みたいなもんではあるのだが……。

ビートルズ、宮澤賢治、この2枚は古い。

最近は夏に出た、はっぴいえんどの2枚組。


タワレコの店内をぶらぶらしていたら、'60〜'70のいわゆるフォークね。
URCというレーベルがあったわけさ。

んで、団体でCD復刻されているのだが……。


しばらく考えて、あたしが出した答えは


ナ ニ ヲ イ マ サ ラ ……。


いや、あらためてCDで聞きなおさずとも、アタマの中にしっかり入ってるから、買う必要がないって思ったわけだ。




* * * *



ところでタイムスリップグリコ。

なかなかちゃぶ台でませんな。

もう、めげそう……とほほ。






2002年10月17日(木)



 一尺八寸


くじら尺のものさし(=\650.)を買ってきた。

呉服屋と話してたって通じないんだ。
もう、わけわかんないんだ。
らちがあかない。

こっちはもうずっと「cm」で生きてきたんだが、向こうは「寸尺」で生きてきてて……。

センチでいうなよって向こうも思ってんだろうけど……。
尺でいわれても、てんでわかんないわけで……。


ふう、やっとこれで腹に落ちた。

今まで「一寸は約3cm」って in put され自分もそう思い込んでて、子どもにもそう教えてきたが、3.8cmもあるじゃないか!

円周率3.14を「3」だと教えるのと同じくらい大きな間違いを、なんでこの年までほっておいたか。

一寸法師が3cmか、3.8cmか、この8mmの差は大きいぞ。



で、呉服屋が「裄丈が一尺八寸もあるのは、測り間違いじゃないでしょうか? わたしの今着てるのが一尺六寸五分です。そんなに大柄なかたじゃないのに八寸っていう寸法は……」

出来上がったお召しを実家でちょっとはおってみる。

洋服の袖丈はいつも手の甲に半分かかってしまうくらいの、チビなあたし。

いつぞや親が知らないうちに仕立てていた着物の袖がつんつるてんで、手首が丸見えだった反動かどうかしらんが、袖くらいたっぷり長くってもいいじゃないか。

まあ、妥協して一尺七寸五分で統一しましょうってことになった。

襟の抜き方とか、きちんと着て測るべき?

信頼してるお針のお師匠さんに測ってもらっての寸法なんだよ。

親がむかし着ていたキモノが、ほどいて洗い張りに出してあったのを発見したから、去年、この寸法で5枚も6枚も仕立てちゃったんだ。


めんどくさいような、わくわくするような……。

いやあ、幸田文とか、青木玉とか、読みたい。
読まなきゃ!。



* * * * *



夫は着るものに関してはプロである。

子ども服の高級ブランドなんて、いくらでもある。
お金さえあれば、どんな下品な夫婦の家の鼻たれ小僧でもこまっしゃくれた city boy にはなれる。

バブル期、夫は子ども用の着物にざぶざぶ、お金をかけた。

洋服じゃあ見栄を張るにも上限があるってことだろう。
着物で張る見栄には限りはないからな。



生後6日め。
産院を退院する時も真っ白なレースのドレスじゃなく、お宮参り用の背中に魔よけの縫い取りのある繭の色そのものの絹のおべべ。

当然、お宮参りも七五三の衣装も子どもそれぞれ別にこしらえた。

わたしはプロの前で自分が着物を着る自信がなかったから、お宮参りも七五三もスーツとかワンピースだった。

バブルがはじけて、子どもの着るものはみんなユニクロ。

ほんだば、わしもおべべを着るべ。

うちにあるものを着る。
よほどのことでない限り新調しない。
賢い節約。



* * * * *



子どもの視界からは死角の位置にわたしらはいた。

夫は立っていて、あたしはしゃがんで冷蔵庫に野菜をつめていた。

ムスメに声をかけながら、夫があたしの頬をなでなでした。

あたしは夫の足をすりすりしてみた。



犬みたい……。



あたしはこの人の犬でもあるんだって、思った。





2002年10月18日(金)
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